
豊橋市や豊川市の古い市街地で物件調査をしていると、隣の家の軒先(のきさき)や雨樋(あまどい)、あるいはブロック塀の一部が、こちらの敷地に「はみ出している」ケースによく遭遇します。
これを不動産用語で「越境(えっきょう)」と呼びます。
「ほんの数センチだし、お互い様だから気にしないよ」
そう言って安易に購入してしまうと、将来売却するときに揉めたり、最悪の場合、その数センチ分の土地を時効によって奪われたりするリスクがあります。
今回は、越境物がある物件を安全に売買するための切り札、「越境の覚書(えっきょうのおぼえがき)」について解説します。
なぜ「越境」を放置してはいけないのか
越境には大きく分けて2つのリスクがあります。
1. 取得時効(しゅとくじこう)のリスク
民法では、他人の土地であっても「自分のものだ」と信じて一定期間(10年または20年)平穏に使い続けると、その土地の所有権を取得できるというルールがあります。
つまり、隣の家の塀があなたの土地に越境している状態を、「越境だ」と指摘せずに長年放置すると、その塀の下の土地は法的に隣人のものになってしまう可能性があるのです。
2. 将来の売却や建築への影響
あなたが将来、その土地を売ろうとしたとき、買主から「越境がある土地なんて買いたくない」「越境部分を解消してくれないと契約しない」と拒否される可能性があります。
また、越境物の位置によっては、自分の家を建て替える際の建築確認申請に支障が出ることもあります。
解決策としての「覚書(念書)」
越境が見つかったからといって、すぐに「隣の家を壊してくれ」というのは現実的ではありません。そこで交わされるのが「覚書(念書)」です。
これは、隣地の所有者とあなたの間で、「越境の事実」と「将来の対応」について書面で約束を取り交わすものです。
この書類があるだけで、資産価値や安心感は劇的に変わります。
覚書に必ず盛り込むべき4つの条項
プロの不動産取引では、以下のような内容を盛り込んだ覚書を作成します。
1. 越境の事実確認
「添付の測量図の通り、甲(隣地)の所有するブロック塀が、乙(あなた)の土地に〇センチ越境していることを双方が確認する」という文言を入れます。
これにより、「自分の土地だと思っていた」という主張を封じ、取得時効の成立を防ぐことができます。
2. 将来の撤去約束
「今はそのままでいいけれど、将来、建物を建て替える時や、塀を作り直す時には、越境を解消して正しい位置に戻してください」という約束を明記します。
これを「是正(ぜせい)の合意」と呼びます。
3. 維持管理の責任
「越境している部分が原因で、こちらの土地や建物に損害を与えた場合(例:越境した屋根から雪が落ちてカーポートが壊れた等)は、所有者の責任で賠償する」といった内容も含めます。
4. 第三者への承継(しょうけい)
ここが最も重要です。「この覚書の内容は、将来、土地の所有者が変わった場合(売買や相続)でも、新しい所有者に引き継がれるものとする」という条項です。
これがないと、隣の家が別の人に売られた瞬間に、約束が無効になってしまう恐れがあります。
民法改正で変わった「木の枝」のルール
建物だけでなく、庭木の枝が越境しているケースも多々あります。
以前の民法では、根っこは勝手に切っても良いが、枝は勝手に切ってはいけない(切ってもらうよう頼むしかない)というルールでした。
しかし、2023年4月の民法改正により、以下の条件を満たせば、越境された側が枝を切り取ることが可能になりました。
- 所有者に枝を切るよう催告したが、相当の期間内に切ってくれないとき。
- 所有者が誰かわからない、または所在不明のとき。
- 急迫の事情があるとき。
とはいえ、いきなりノコギリを持っていくとご近所トラブルになります。まずは覚書で「越境している枝は、適切な時期に剪定する」と約束してもらうのが大人の対応です。
まとめ:口約束は「言った言わない」の元
仲の良いお隣さん同士だと、「あそこはみ出てるけど、まあいいよ」「ごめんね、次直すから」といった口約束で済ませてしまいがちです。
しかし、代替わりや相続が発生したとき、その「まあいいよ」を知らない新しい所有者との間で必ずトラブルになります。
セントラルエステートでは、売買契約の前に現地調査を行い、越境の有無を徹底的にチェックします。もし発見された場合は、司法書士や土地家屋調査士と連携し、将来に禍根を残さないための「覚書」の締結をサポートいたします。
越境トラブルの解決は、発見したその時がベストタイミングです。
参照ソース・事実確認
本記事は以下の法令および不動産実務に基づき作成されています。執筆時点(2026年2月)での情報です。
※覚書の内容や法的効力については、個別の状況により弁護士等の専門家への相談が必要な場合があります。

